ではなくて、初霜とや謂わむ。薄く塗った感心に襟脚の太くない、二十歳《はたち》ばかりの、愛嬌《あいきょう》たっぷりの女で、二つ三つは行ける口、四方山《よもやま》の話も機《はず》む処から、小宮山も興に入り、思わず三四合を傾けまする。
 後《うしろ》の花が遠州で、前の花が池の坊に座を構え、小宮山は古流という身で、くの字になり、ちょいと杯を差置きましたが、
「姉さん、新らしく尋ねるまでもないが、ここはたしか柏屋だね。」
「はい、さようでございますよ。」
「柏屋だとするとその何、姉さんが一人ある筈《はず》だね。」
「皆《みんな》で四人《よったり》。」
「四人? 成程四人かね。」
「お喜代さん、お美津さん、お雪さんに私でございます。」
「何、お雪さんと云うのが居る?」
 と小宮山は、金の脈を掘当てましたな、かねての話が事実となったのでありますから、漫《そぞろ》に勇んだので乗出しようが尋常事《ただごと》でありませんから、
「おや。」
 小宮山はわざとらしく威儀を備え、
「そうだ、お前さんの名は何と云う。」
「そうだは御挨拶でございますこと、私は名も何《なんに》もございませんよ。」
「いいえさ、何と云
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