でお茶菓子の越《こし》の雪、否、広袖だの、秋風だの、越の雪だのと、お愛想までが薄ら寒い谷川の音ももの寂しい。
湯上りで、眠気は差したり、道中記を記《つ》けるも懶《ものう》し、入《い》る時帳場で声を懸けたのも、座敷へ案内をしたのも、浴衣を持って来たのも、お背中を流しましょうと言ったのも、皆|手隙《てすき》と見えて、一人々々|入交《いれかわ》ったが、根津、鶯谷はさて置いて柳原にもない顔だ、於雪と云うのはどうしたろう、おや女の名で、また寒くなった、これじゃ晩に熱燗《あつかん》で一杯遣らずばなるまい。
四
鮎《あゆ》の大きいのは越中の自慢でありますが、もはや落鮎になっておりますけれども、放生津《ほうじょうづ》の鱈《たら》や、氷見《ひみ》の鯖《さば》より優《まし》でありまするから、魚田《ぎょでん》に致させまして、吸物は湯山《ゆさん》の初茸《はつたけ》、後は玉子焼か何かで、一|銚子《ちょうし》つけさせまして、杯洗《はいせん》の水を切るのが最初《はじまり》。
「姉さん、お前に一つ。」
などと申しまする時分には、小宮山も微酔《ほろよい》機嫌、向うについておりますのは、目指すお雪
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