え馬鹿げたことはない筈《はず》だが、聞きなせえ、今日だ、十九日というと不思議に一挺ずつ失《な》くなります。」
「何《なん》が、」と変な目をして、捨吉は解《わか》ったようで呑込《のみこ》めない。
「何がッたって、預ってる中《うち》のさ。」
「おお、」
「ね、御覧なせえ、不思議じゃアありませんかい。私《わっし》もどうやらこうやら皆様《みなさん》で贔屓《ひいき》にして、五助のでなくッちゃあ歯切《はぎれ》がしねえと、持込んでくんなさるもんだから、長年居附いて、婆《ばば》どんもここで見送ったというもんだ。先《せん》の内もちょいちょい紛失したことがあるにゃあります。けれども何の気も着かねえから、そのたんびに申訳をして、事済みになり/\したんだが。
 毎々のことでしょう、気をつけると毎月さ、はて変だわえ、とそれからいつでも寝際にゃあちゃんと、ちゅう、ちゅう、たこ、かいなのちゅ、と遣ります。
 いつの間にか失くなるさ、怪《け》しからねえこッたと、大きに考え込んだ日が何でも四五年前だけれど、忘れもしねえ十九日。
 聞きなせえ。
 するとその前の月にも一昨日《おととい》持って来たとッて、東屋《あずまや》の
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