味の可《い》いのが入用というので、ちょうどお前《めえ》ん処《とこ》へ頼んだのが間に合うだろうと、大急ぎで取りに来たんだが、何かね、十九日がどうかしたかね。」
「どうのこうのって、真面目なんだ。いけ年《どし》を仕《つかまつ》って何も万八を極《き》めるにゃ当りません。」
「だからさ、」
「大概《てえげえ》御存じだろうと思うが、じゃあ知らねえのかね。この十九日というのは厄日でさ。別に船頭衆《せんどしゅう》が大晦日《おおみそか》の船出をしねえというような極《きま》ったんじゃアありません。他《ほか》の同商売にはそんなことは無《ね》えようだが、廓《くるわ》中のを、こうやって引受けてる、私許《うち》ばかりだから忌《いや》じゃあねえか。」
「はて――ふうむ。」
「見なさる通りこうやって、二|百《そく》三百と預ってありましょう。殊にこれなんざあ御銘々使い込んだ手加減があろうというもんだから。そうでなくッたって粗末にゃあ扱いません。またその癖誰もこれを一|挺《ちょう》どうしようと云うのも無《ね》えてッた勘定だけれど、数のあるこッたから、念にゃあ念を入れて毎日一度ずつは調べるがね。紛失《ふんじつ》するなんて
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