都《みやこ》という人のを新造衆《しんぞしゅう》が取りに来て、」
五助は振向いて背後《うしろ》の棚、件《くだん》の屋台の蔭ではあり、間狭《まぜま》なり、日は当らず、剃刀ばかりで陰気なのを、目金越に見て厭《いや》な顔。
四
「と、ここから出そうとすると無かろうね。探したが探したがさあ知れねえ。とうとう平あやまりのこっち凹《へこ》み、先方様《さきさま》むくれとなったんだが、しかも何と、その前の晩気を着けて見ておいたんじゃアあるまいか。
持って来たのが十八日、取りに来たのが二十日の朝、検《しら》べたのが前の晩なら、何でも十九日の夜中だね、希代なのは。」
「へい、」と言って、若い者は巻煙草《まきたばこ》を口から取る。
五助は前屈《まえかが》みに目金を寄せ、
「ほら、日が合ってましょう。それから気を着けると、いつかも江戸町のお喜乃《きの》さんが、やっぱり例の紛失で、ブツブツいって帰《けえ》ったッけ、翌日《あくるひ》の晩方、わざわざやって来て、
(どうしたわけだか、鏡台の上に、)とこうだ。私許《うち》へ預って、取りに来て失《う》せたものが、鏡台の上にあるは、いかがでござい。
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