拭《てぬぐい》を突込《つっこ》んで、うつむけになって顔を洗うのだ。ぐらぐらとお前その時から島田の根がぬけていたろうじゃねえか。
それですっぱりと顔を拭《ふ》いてよ、そこでまた一安心をさせながら、何と、それから丸々ッちい両肌を脱いだんだ、それだけでも悚《ぞっ》とするのに、考えて見りゃちっと変だけれど、胸の処に剃刀が、それがお前《めえ》、
(五助さん、これでしょう、)と晩方|遊女《おいらん》が遣《や》った図にそっくりだ。はっと思うトタンに背向《うしろむき》になって仰向けに、そうよ、上口《あがりぐち》の方にかかった、姿見を見た。すると髪がざらざらと崩れたというもんだ、姿見に映った顔だぜ、その顔がまた遊女《おいらん》そのままだから、キャッといったい。」
二十五
されば五助が夢に見たのは、欽之助が不思議の因縁で、雪の夜《よ》に、お若が紅梅の寮に宿ったについての、委《くわ》しい順序ではなく、遊女の霊が、見棄てられたその恋人の血筋の者を、二上屋の女《むすめ》に殺させると叫んだのも、覚際《さめぎわ》にフト刺戟された想像に留《とど》まったのであるが、しかしそれは不幸にも事実であった
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