て、夢にも二人づれよ。」
「やれやれ御苦労千万。」
「それから戸外《おもて》へ出ると雪はもう留《や》んでいた、寮の前へ行《ゆ》くとひっそりかんよ。人騒せなと、思ったけれど、あやまる分と、声をかけて、戸を叩いたけれど返事がねえ。
 いよいよ変だと思うから大声で喚《わめ》いてドンドンやったが、成るほど夢か。叩くと音がしねえ、思うように声が出ねえ。我ながら向う河岸の渡船《わたしぶね》を呼んでるようだから、構わず開けて入ろうとしたが掛金がっちりだ。
 どこか開《あ》く処があるめえかと、ぐるぐる寮の周囲《まわり》を廻る内に、湯殿の窓へあかりがさすわ。
 はて変だわえ、今時分と、そこへ行って覗《のぞ》いた時、お若さんが寝乱れ姿で薬鑵を提げて出て来たあ。とまず安心をして凄《すご》いように美しい顔を見ると、目を泣腫《なきは》らしています、ね。どうしたかと思う内に、鹿《か》の子の見覚えある扱《しごき》一ツ、背後《うしろ》へ縮緬《ちりめん》の羽織を引振《ひっぷる》って脱いでな、褄《つま》を取って流《ながし》へ出て、その薬鑵の湯を打《ぶ》ちまけると、むっとこう霧のように湯気が立ったい、小棚から石鹸を出して手
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