をかけ、短胴服《チョッキ》をかけて、それから上衣を引《ひっ》かけたが、持ったまま手を放さず、じっと立って、再び密《そっ》と爪立《つまだ》つようにして、間《ま》を隔ってあたかも草双紙の挿絵を見るよう、衣《きぬ》の縞《しま》も見えて森閑と眠っている姿を覗くがごとくにして、立戻って、再三衣桁にかけた上衣の衣兜《かくし》。
しかもその左の方を、しっかと取ってお若は思わず、
「ああ、厭《いや》だっていうんだもの、」と絶入るように独言《ひとりごと》をした。あわれこうして、幾久しく契《ちぎり》を籠《こ》めよと、杉が、こうして幾久しく契を籠めよと!
お若は我を忘れたように、じっとおさえたまま身を震わして、しがみつくようにするトタンに、かちりと音して、爪先へ冷《ひや》りと中《あた》り、総身に針を刺されたように慄《ぞっ》と寒気を覚えたのを、と見ると一|挺《ちょう》の剃刀《かみそり》であった。
「まあ、恐《こわ》いことねえ。」
なお且つびっしょり濡れながら袂《たもと》の端に触れたのは、包んで五助が方《かた》へあつらえた時のままなる、見覚えのある反故《ほご》である。
お若はわなわなと身を震わしたが、左
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