。
「ええ、成程、貴下《あなた》、それじゃあ、何でございますよ、抱えの瀬川さんという方にお貸しなすったんですよ、あの、お頼まれなすった遊女《おいらん》は、脊の高い、品の可い、そして淋しい顔色《かおつき》の、ああ煩っているもんだからてっきり、そう!」
と勢《いきおい》よくそれにした。
「今夜までに返すからと言ったにゃあ言いましたけれども、何、少姐《ねえ》さんは返してもらうおつもりじゃございませんのに、やっと今こっちじゃあ思い出しました位ですもの。」
「何です、それは、」とやや顔の色を直して言った。口うらを聞けば金子《かね》らしい、それならばと思う今も衣兜の中なる、手尖《てさき》に触るるは袂落《たもとおとし》。修学のためにやがて独逸《ドイツ》に赴かんとする脇屋欽之助は、叔母に今は世になき陸軍少将|松島主税《まつしまちから》の令夫人を持って、ここに擲《なげう》って差支えのない金員あり。もって、余りに頼効《たのみがい》なき虚気《うつけ》の罪を、この佳人の前に購《あがな》い得て余りあるものとしたのである。
問われてお杉は引取って、
「ちっとばかりお金子です。」
欽之助は嬉しそうに、
「じゃ
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