鷹揚《おうよう》に些《さ》も意に介する処のないような、しかも情の籠《こも》った調子で、かえって慰めるように謂《い》った。
 お杉は心も心ならず、憂慮《きづかわ》しげに少年の状《さま》を瞻《みまも》りながら、さすがにこの際|喙《くち》を容《い》れかねていたのであった。
 此方《こなた》はますます当惑の色面《おもて》に顕《あらわ》れ、
「可《い》いじゃアありません、可《よ》かあない、可かあない、」
 と自ら我身を詈《ののし》るごとく、
「落すなんて、そんな間のあるわけはないんだからねえ、頼んだ人は生命《いのち》にもかかわる。」と、早口にいってまた四辺《あたり》を※[#「目+句」、第4水準2−81−91]《みまわ》した。
「一体どんなものでございます。」とお杉は少年に引添うて、渠《かれ》を庇《かば》うようにして言う。
「私も更《あらた》めちゃ見なかった、いいえ、実は見ようとも思わなかったような次第なんです。何でもこう紙につつんだ、細長いもので、受取った時少し重みがあったんだがね。」
 お若はちょいと頷《うなず》いて、
「杉、」
「ええ、」
「瀬川さんの……ね、あれさ、」と呑込《のみこ》ませる
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