地へ入った処、ちょうど可い、帰路《かえりみち》もそこだというもの。そのまま別れて遣《や》って来ると、先刻《さっき》尋ねました、路地の突当りになる通《とおり》の内に、一軒|灯《あかり》の見える長屋の前まで来て、振向いて見ると、その婦人《おんな》がまだ立っていて、こっちへ指《ゆびさし》をしたように見えたけれども、朧気《おぼろげ》でよくは分らないから、一番《ひとつ》、その灯《あかり》を幸《さいわい》。
路地をお入んなさいッて、酒にでも酔ったらしい、爺《じじい》の声で教えてくれた。
何、一々|委《くわ》しいことをお話しするにも当らなかったんだけれど、こっちへ入って、はじめて、この明《あかる》い灯《あかり》を見ると、何だか雪路《ゆきみち》のことが夢のように思われたから、自分でもしっかり気を落着けるため、それから、筋道を謂わないでは、夜中に婦人《おんな》ばかりの処へ、たとえ頼まれたッても変だから。
そういう訳です、ともかくもその頼まれたものを上げましょう、」といって、無造作に肱《ひじ》を張って、左の胸に高く取った衣兜《かくし》の中へ手を入れた。――
固くなって聞いていた、二人とも身動きして
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