た、や、路を聞こう、声を懸けようと思う時、
 近づく人に白鷺《しらさぎ》の驚き立つよう。
 前途《ゆくて》へすたすたと歩行《ある》き出したので、何だか気がさしてこっちでも立停《たちどま》ると、劇《はげ》しく雪の降り来る中へ、その姿が隠れたが、見ると刎橋の際へ引返《ひっかえ》して来て、またするすると向うへ走る。
 続いて歩行《ある》き出すと、向直ってこっちへ帰って来るから、私もまた立停るという工合、それが三度目には擦違って、婦人《おんな》は刎橋の処で。
 私は歩行《ある》き越して入違いに、今度は振返って見るようになったんだ。
 そうするとその婦人《おんな》がこう彳《たたず》んだきり、うつむいて、さも思案に暮れたという風、しょんぼりとして哀《あわれ》さったらなかったから。
 私は二足ばかり引返《ひっかえ》した。
 何か一人では仕兼ねるようなことがあるのであろう、そんな時には差支えのない人に、力になって欲しかろう。自分を見て遁《に》げないものなら、どんな秘密を持っていようと、声をかけて、構うまいと思ってね。
 実は何、こっちだって味方が欲《ほし》い。またどんな都合で腕車の相談が出来ないもので
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