まったんですよ。
 あとは大飲《おおのみ》。
 何しろ土手下で目が覚めたという始末なんですから。
 それからね。
 何でも来た方へさえ引返《ひっかえ》せば芳原へ入るだけの憂慮《きづかい》は無いと思って、とぼとぼ遣《や》って来ると向い風で。
 右手に大溝《おおどぶ》があって、雪を被《かつ》いで小家《こいえ》が並んで、そして三階|造《づくり》の大建物の裏と見えて、ぼんやり明《あかり》のついてるのが見えてね、刎橋《はねばし》が幾つも幾つも、まるで卯《う》の花|縅《おどし》の鎧《よろい》の袖を、こう、」
 借着の半纏《はんてん》の袂《たもと》を引いて。
「裏返したように溝《どぶ》を前にして家の屋根より高く引上げてあったんだ。」
 それも物珍しいから、むやむやの胸の中にも、傍見《わきみ》がてら、二ツ三ツ四ツ五足に一ツくらいを数えながら、靴も沈むばかり積った路を、一足々々踏分けて、欽之助が田町の方へ向って来ると、鉄漿溝《おはぐろどぶ》が折曲って、切れようという処に、一ツだけ、その溝の色を白く裁切《たちき》って刎橋の架《かか》ったままのがあった。
「そこの処に婦人《おんな》が一|人《にん》立ってまし
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