いけれども、急に改まって五助が真面目だから、聞くのも気がさして、
「剃刀を? おかしいな。」
「おかしくはねえよ。この頃じゃあ大抵|何楼《どこ》でも承知の筈だに、どうまた気が揃ったか知らねえが、三人が三人取りに寄越《よこ》したのはちっと変だ、こりゃお気をつけなさらねえと危《あぶね》えよ。」
ますます怪訝《けげん》な顔をしながら、
「何も変なこたアありやしないんだがね、別に遊女《おいらん》たちが気を揃えてというわけでもなしさ。しかしあたろうというのは三人や四人じゃあねえ、遣《や》れるもんなら楼《うち》に居るだけ残らずというのよ。」
「皆《みんな》かい、」
「ああ、」
「いよいよ悪かろう。」
「だってお前《めえ》、床屋が居続けをしていると思や、不思議はあるめえ。」
五助は苦笑《にがわらい》をして、
「洒落《しゃれ》じゃあないというに。」
「何、洒落じゃあねえ、まったくの話だよ。」と若いものは話に念が入《い》って、仕事場の前に腰を据えた。
十九日
三
「昨夜《ゆうべ》ひけ過《すぎ》にお前《めえ》、威勢よく三人で飛込んで来た、本郷辺の職人|徒《てあい》さ。今
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