して、雪にがっくり、腕車《くるま》が支《つか》えたのでやっと目が覚めたんだ。」
 この日|脇屋欽之助《わさやきんのすけ》が独逸行《ドイツゆき》を送る宴会があった。
「実は今日友達と大勢で伊予紋に会があったんです、私がちっと遠方へ出懸けるために出来た会だったもんだから、方々の杯の目的《めあて》にされたんで、大変に酔っちまってね。横になって寝てでもいたろうか、帰りがけにどこで腕車に乗ったんだか、まるで夢中。
 もっとも待たしておく筈《はず》の腕車はあったんだけれども、一体内は四《よ》ツ谷《や》の方、あれから下谷《したや》へ駆けて来た途中、お茶の水から外神田へ曲ろうという、角の時計台の見える処で、鉄道馬車の線路を横に切れようとする発奮《はずみ》に、荷車へ突当って、片一方の輪をこわしてしまって、投出されさ。」
「まあ、お危うございます、」
「ちっと擦剥《すりむ》いた位、怪我《けが》も何もしないけれども。
 それだもんだから、辻車に飛乗《とびのり》をして、ふらふら眠りながら来たものと見えます。
 お話のその土手へ上《あが》ろうという坂だ。しっくり支《つか》えたから、はじめて気がついてね、見ると驚
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