る。
「どうして、酒と聞くと身震《みぶるい》がするんだ、どうも、」
と言いながら顔を上げて、座右のお杉と、彼方《かなた》に目の覚めるようなお若の姿とを屹《きっ》と見ながら、明《あかる》い洋燈《ランプ》と、今青い炎《ひ》を上げた炭とを、嬉しそうに打眺めて、またほッといきをついて、
「私を変だと思うでしょう。」
十七
「自分でも何だか夢を見てるようだ。いいえ薬にも及ばない、もう可《い》いんです。何だね、ここは二上屋という吉原の寮で、お前さんは、女中、ああ、そうして姉さんはお若さん?」
「はい、さようでございます。」とお若はあでやかに打微笑《うちほほえ》む。
「ええと、ここを出て突当りに家《うち》がありますね、そこを通って左へ行《ゆ》くと、こう坂になっていましょうか、そう、そこから直《じき》に大門ですか、そう、じゃあ分った、姉さん、」とお若の方に向直った。
「姉さんに届けるものがあるんです、」といいながらお杉に向い、
「確か廓《くるわ》へ入ろうという土手の手前に、こっちから行《ゆ》くと坂が一ツ。」
打頷《うちうなず》けば頷いて、
「もう分った、そこです、その坂を上ろうと
前へ
次へ
全88ページ中55ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング