はその筈《はず》じゃて、お家に取っては、宝じゃものを。
念を入れて仕上げてくれ、近々にその後室様が、実の児《こ》よりも可愛がっておいでなさる、甥御《おいご》が一方《ひとかた》。悪い茶も飲まずに、さる立派な学校を卒業なされた。そのお祝に、御教訓をかねてお遣物《つかいもの》になさるつもり、まずまあ早くいってみりゃ、油断が起って女狂《おんなぐるい》、つまり悪所入《あくしょばいり》などをしなさらぬようにというのじゃ。
作平頼む、と差配《おおや》さんが置いて行《ゆ》かれた。畏《かしこま》り奉るで、昨日《きのう》それが出来て、差配さんまで差出すと、直《すぐ》に麹町のお邸《やしき》とやらへ行《ゆ》かしった。
点火頃《ひともしごろ》に帰って来て、作、喜べと大枚三両。これはこれはと心《しん》から辞退をしたけれども、いや先方様《さきさま》でも大喜び、実は鏡についてその話のあったのは、御維新《ごいっしん》になって八年、霜月の十九日じゃ。月こそ違うが、日は同一《おんなじ》、ちょうど昨日の話で今日、更《あらた》めてその甥御様に送る間にあった、ということで、研賃《とぎちん》には多かろうが、一杯飲んでくれと、
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