の荷を担いで、廓内をぶらついて、帰りにゃあ箕輪《みのわ》の浄閑寺へ廻って、以前|御贔屓《ごひいき》になりましたと、遊女《おいらん》の無縁の塔婆に挨拶《あいさつ》をして来やあがる。そんな奴も差配《さはい》内になくッちゃあお祭の時幅が利かねえ。忰《せがれ》は稼いでるし、稲荷町の差配は店賃の取り立てにやあ歩行《ある》かねえッての、むむ。」と大得意。この時五助はお若の剃刀をぴったりと砥《と》にあてたが、哄然《こうぜん》として、
「気に入った気に入った、それも贔屓の仁左衛門だい。」


     作平物語

       九

「ところで聞かっしゃい、差配《おおや》さまの謂《い》うのには、作平、一番《ひとつ》念入《ねんいり》に遣《や》ってくれ、その代り儲かるぜ、十二分のお手当だと、膨らんだ懐中《ふところ》から、朱総《しゅぶさ》つき、錦《にしき》の袋入というのを一面の。
 何でも差配《おおや》さんがお出入《でいり》の、麹町《こうじまち》辺の御大家の鏡じゃそうな。
 さあここじゃよ。十九日に因縁づきは。憚《はばか》ってお名前は出さぬが、と差配《おおや》さんが謂わっしゃる。
 その御大家は今|寡婦様《
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