様じゃで、」
「御同様※[#感嘆符疑問符、1−8−78]」と五助は日脚を見て仕事に懸《かか》る気、寮の美人の剃刀を研ぐ気であろう。桶《おけ》の中で砥石《といし》を洗いながら、慌てたように謂《いい》返した。
「御同様は気がねえぜ、お前《めえ》の方にも曰《いわく》があるかい。」
「ある段か、お前さん。こういうては何じゃけれど、田町の剃刀研、私《わし》は広徳寺前を右へ寄って、稲荷町《いなりちょう》の鏡研、自分達が早や変化《へんげ》の類《たぐい》じゃ、へへへへへ。」と薄笑《うすわらい》。
「おやおや、汝《てめえ》から名乗る奴《やつ》もねえもんだ。」と、かっちり、つらつらと石を合せる。
「じゃがお前、東京と代が替って、こちとらはまるで死んだ江戸のお位牌《いはい》の姿じゃわ、羅宇《らお》屋の方はまだ開《あ》けたのが出来たけれど、もう貍穴《まみあな》の狸、梅暮里の鰌《どじょう》などと同一《ひとつ》じゃて。その癖職人絵合せの一枚|刷《ずり》にゃ、烏帽子素袍《えぼしすおう》を着て出ようというのじゃ。」
「それだけになお罪が重いわ。」
「まんざらその祟《たたり》に因縁のないことも無いのじゃ、時に十九日の。
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