育ったもんだが、人は氏よりというけれど、作平さん、そうばかりじゃあねえね。
 お蔭で命を助かった位な施《ほどこし》を受けてるのがいくらもあら。
 藤三郎|父親《ちゃん》がまた夢中になって可愛がるだ。
 少姐《ねえさん》の袖に縋《すが》りゃ、抱えられてる妓衆《こどもしゅう》の証文も、その場で煙《けむ》になりかねない勢《いきおい》だけれど、そこが方便、内に居るお勝なんざ、よく知ってていうけれど、女郎衆なんという者は、ハテ凡人にゃあ分らねえわ。お若さんの容色《きりょう》が佳《い》いから天窓《あたま》を下げるのが口惜《くやし》いとよ。
 私《あっし》あ鐚一文《びたいちもん》世話になったんじゃあねえけれど、そんなこんなでお前《めえ》、その少姐《ねえさん》が大の贔屓《ひいき》。
 どうだい、こう聞きゃあお前《めえ》だって贔屓にしざあなるめえ。死んだ田之助そッくりだあな。」

       八

「ところで御註文を格別の扱《あつかい》だ。今日だけは他《ほか》の剃刀を研がねえからね、仕事と謂《い》や、内じゃあ商売人のものばかりというもんだに因って、一番不浄|除《よけ》の別火《べつび》にして、お若さんの
前へ 次へ
全88ページ中23ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング