尖《さき》でずッと一わたり、目金で見通すと、
「そうそうそう、」といって仰向《あおむ》いて、掌《たなそこ》で帳面をたたくこと二三度す。
作平もしょぼしょぼとある目で覗《のぞ》きながら、
「日切《ひぎれ》の仕事かい。」
「何、急ぐのじゃあねえけれど、今日中に一|挺《ちょう》私《わし》が気で研いで進ぜたいのがあったのよ、つい話にかまけて忘りょうとしたい、まあ、」
「それは邪魔をして気の毒な。」
「飛んでもねえ、緩《ゆっく》りしてくんねえ。何さ、実はお前《めえ》、聞いていなすったか、その今日だ。この十九日にゃあ一日仕事を休むんだが、休むについてよ、こう水を更《あらた》めて、砥石《といし》を洗って、ここで一挺|念入《ねんいり》というのがあるのさ、」
「気に入ったあつらえかの。」
「むむ、今そこへ行《ゆ》きなすった、あの二上屋の寮が、」
と向うの路地を指《ゆびさ》した。
「あ、あ、あれだ、紅梅が見えるだろう、あすこにそのお若さんてって十八になるのが居て、何だ、旦那の大の秘蔵女《ひぞうっこ》さ。
そりゃ見せたいような容色《きりょう》だぜ、寮は近頃出来たんで、やっぱり女郎屋の内証《ないしょ》で
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