こいらの者に似合わねえ、俳優《やくしゃ》というと目の敵《かたき》にして嫌うから、そこで何だ。客は向《むこう》へ廻すことにして、部屋の方の手伝に爺やとこのお辻をな、」
「へい、へい、へい、成程、そりゃお前《めえ》さん方御苦労様。」
「はははは、別荘《おしもやしき》に穴籠《あなごもり》の爺《じじ》めが、土用干でございますてや。」
「お前さん、今日は。」とお辻というのが愛想の可《い》い。
 藤三郎はそのまま土手の方へ行こうとして、フト研屋《とぎや》の店を覗込《のぞきこ》んで、
「よくお精が出るな。」
「いや、」作平と共に四人の方《かた》を見ていたのが、天窓《あたま》をひたり、
「お天気で結構でございます。」
「しかし寒いの。」と藤三郎は懐手で空を仰ぎ、輪|形《なり》にずッと※[#「目+句」、第4水準2−81−91]《みまわ》して、
「筑波の方に雲が見えるぜ。」

       七

「嘘あねえ。」
 と五助はあとでまた額を撫《な》で、
「怠けちゃあ不可《いけな》いと謂《い》われた日にゃあ、これでちっとは文句のある処だけれど、お精が出ますとおっしゃられてみると、恐入るの門なりだ。
 実際また我
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