見て、
「おッと十九日。」
という処へ、荷車が二台、浴衣の洗濯を堆《うずたか》く積んで、小僧が三人寒い顔をしながら、日向《ひなた》をのッしりと曵《ひ》いて通る。向うの路地の角なる、小さな薪《まき》屋の店前《みせさき》に、炭団《たどん》を乾かした背後《うしろ》から、子守がひょいと出て、ばたばたと駆けて行《ゆ》く。大音寺前あたりで飴《あめ》屋の囃子《はやし》。
紅梅屋敷
六
その荷車と子守の行違《ゆきちが》ったあとに、何にもない真赤《まっか》な田町の細路へ、捨吉がぬいと出る。
途端にちりりんと鈴《りん》の音、袖に擦合うばかりの処へ、自転車一輛、またたきする間もあらせず、
「危い、」と声かけてまた一輛、あッと退《すさ》ると、耳許《みみもと》へ再び、ちりちり!
土手の方から颯《さっ》と来たが、都合三輛か、それ或《あるい》は三|羽《びき》か、三|疋《びき》か、燕《つばめ》か、兎か、見分けもつかず、波の揺れるようにたちまち見えなくなった。
棒立ちになって、捨吉|茫然《ぼうぜん》と見送りながら、
「何だ、一文も無《ね》え癖に、」
「汝《てめえ》じゃアあるまい
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