や》る。
さらぬだに震えそうな作平、
「何てえ寒いこッてございましょう、ついぞ覚えませぬ。」
「はッくしょい、ほう、」と呼吸《いき》を吹いて、堪《たま》りかねたらしい捨吉続けざまに、
「はッくしょい! ああ、」といって眉を顰《ひそ》め、
「噂《うわさ》かな、恐しく手間が取れた、いや、何しろ三挺頂いて帰りましょう。薄気味は悪いけれど、名にし負う捨どんがお使者でさ、しかも身替《みがわり》を立てる間《うち》奥の一間で長ッ尻《ちり》と来ていらあ。手ぶらでも帰られまい。五助さん、ともかくも貰って行《ゆ》くよ。途中で自然《おのず》からこの蓋《ふた》が取れて手が切れるなんざ、おっと禁句、」とこの際、障子の内へ聞かせたさに、捨吉相方なしの台辞《せりふ》あり。
五助はまめだって、
「よくそう謂《い》いなせえよ、」
「十九日かね、」と内からいう。
「ええ、御存じ、」といいながら、捨吉腰を伸《のば》してずいと立った。
「希代だわねえ。」
「やっぱり何でございますかい、」と作平はこれから話す気、振《ふり》かえて、荷を下《おろ》し、屋台へ天秤を立てかける。
捨吉はぐいと三挺、懐へ突込みそうにしたが、じっと
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