を交わして、ひやりとした風、つっけんどんなもの謂《いい》で、
「何だ、」
「はい、もしお寒いこッてござります。」
「北風《ならい》のせいだな、こちとらの知ったこッちゃあねえよ。」
「へへへへへ、」と鼻の尖《さき》で寂《さみ》しげなる笑《えみ》を洩《もら》し、
「もし、唯今《ただいま》のお話は、たしか幾日《いくか》だとかおっしゃいましたね。」

       五

 五助は目金越に、親仁の顔を瞻《みまも》っていたが、
「やあ作平《さくべい》さんか、」といって、その太わくの面道具《おもてどうぐ》を耳から捻《ねじ》り取るよう、※[#「てへん+劣」、第3水準1−84−77]《も》ぎはなして膝の上。口をこすって、またたいて、
「飛んだ、まあお珍しい、」と知った中。捨吉間が悪かったものと見え、
「作平さん、かね。」と低声《こごえ》で口の裡《うち》。
 折から、からからと後歯《あとば》の跫音《あしおと》、裏口ではたと留《や》んで、
「おや、また寝そべってるよ、図々しい、」
 叱言《こごと》は犬か、盗人猫《ぬすっとねこ》か、勝手口の戸をあけて、ぴッしゃりと蓮葉《はすは》にしめたが、浅間だから直《じき》
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