、眉が引釣《ひッつ》り、額の皺《しわ》が縊《くび》れるかと凹《へこ》むや、眼《まなこ》が光る。……歯が鳴り、舌が滑《なめらか》に赤くなって、滔々《とうとう》として弁舌鋭く、不思議に魔界の消息を洩《もら》す――これを聞いたものは、親たちも、祖父祖母《おおじおおば》も、その児《こ》、孫などには、決して話さなかった。
幼いものが、生意気に直接《じか》に打撞《ぶつか》る事がある。
「杢やい、実家《さと》はどこだ。」
「実家の事かい、ははん。」
や、もうその咳《せきばらい》で、小父さんのお医師《いしゃ》さんの、膚触《はだざわ》りの柔かい、冷《ひや》りとした手で、脈所をぎゅうと握られたほど、悚然《ぞっ》とするのに、たちまち鼻が尖《とが》り、眉が逆立ち、額の皺《しわ》が、ぴりぴりと蠢《うごめ》いて眼が血走る。……
聞くどころか、これに怯《おび》えて、ワッと遁《に》げる。
「実家はな。」
と背後《うしろ》から、蔽《おお》われかかって、小児《こども》の目には小山のごとく追って来る。
「御免なさい。」
「きゃっ!」
その時に限っては、杢若の耳が且つ動くと言う――嘘を吐《つ》け。
前へ
次へ
全34ページ中10ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング