の狂女がもうけた、実子で、しかも長男で、この生れたて変なのが、やや育ってからも変なため、それを気にして気が狂った、御新造は、以前、国家老の娘とか、それは美しい人であったと言う……
ある秋の半ば、夕《ゆうべ》より、大雷雨のあとが暴風雨《あらし》になった、夜の四つ時十時過ぎと思う頃、凄《すさま》じい電光の中を、蜩《ひぐらし》が鳴くような、うらさみしい、冴《さ》えた、透《とお》る、女の声で、キイキイと笑うのが、あたかも樹の上、雲の中を伝うように大空に高く響いて、この町を二三度、四五たび、風に吹廻されて往来《ゆきき》した事がある……通魔《とおりま》がすると恐れて、老若、呼吸《いき》をひそめたが、あとで聞くと、その晩、斎木(医師の姓)の御新造が家《うち》を抜出し、町内を彷徨《さまよ》って、疲れ果てた身体《からだ》を、社《やしろ》の鳥居の柱に、黒髪を颯《さっ》と乱した衣《きぬ》は鱗《うろこ》の、膚《はだえ》の雪の、電光《いなびかり》に真蒼《まっさお》なのが、滝をなす雨に打たれつつ、怪しき魚《うお》のように身震《みぶるい》して跳ねたのを、追手《おって》が見つけて、医師《いしゃ》のその家へかつぎ込ん
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