だ。」
 と筵《むしろ》の上を膝で刻んで、嬉しそうに、ニヤニヤして、
「初茸《はつたけ》なんか、親孝行で、夜遊びはいたしません、指を啣《くわ》えているだよ。……さあ、お姫様の踊がはじまる。」
 と、首を横に掉《ふ》って手を敲いて、
「お姫様も一人ではない。侍女《こしもと》は千人だ。女郎蜘蛛が蛇に乗っちゃ、ぞろぞろぞろぞろみんな衣裳を持って来ると、すっと巻いて、袖を開く。裾《すそ》を浮かすと、紅玉《ルビイ》に乳が透き、緑玉《エメラルド》に股《もも》が映る、金剛石《ダイヤモンド》に肩が輝く。薄紅《うすあか》い影、青い隈取《くまど》り、水晶のような可愛い目、珊瑚《さんご》の玉は唇よ。揃って、すっ、はらりと、すっ、袖をば、裳《すそ》をば、碧《あい》に靡《なび》かし、紫に颯と捌《さば》く、薄紅《うすべに》を飜《ひるがえ》す。
 笛が聞える、鼓が鳴る。ひゅうら、ひゅうら、ツテン、テン、おひゃら、ひゅうい、チテン、テン、ひゃあらひゃあら、トテン、テン。」
 廓《くるわ》のしらべか、松風か、ひゅうら、ひゅうら、ツテン、テン。あらず、天狗の囃子《はやし》であろう。杢若の声を遥《はるか》に呼交す。
「唄は
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