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「船からよ、白い手で招くだね。黒親仁は俺を負《おぶ》って、ざぶざぶと流《ながれ》を渡って、船に乗った。二人の婦人《おんな》は、柴に附着《くッつ》けて売られたっけ、毒だ言うて川下へ流されたのが遁《に》げて来ただね。
ずっと川上へ行《ゆ》くと、そこらは濁らぬ。山奥の方は明《あかる》い月だ。真蒼《まっさお》な激《はげし》い流が、白く颯《さっ》と分れると、大《おおき》な蛇が迎いに来た、でないと船が、もうその上は小蛇の力で動かんでな。底を背負《しょ》って、一廻りまわって、船首《みよし》へ、鎌首を擡《もた》げて泳ぐ、竜頭の船と言うだとよ。俺は殿様だ。……
大巌《おおいわ》の岸へ着くと、その鎌首で、親仁の頭をドンと敲《たた》いて、(お先へ。)だってよ、べろりと赤い舌を出して笑って谷へ隠れた。山路はぞろぞろと皆、お祭礼《まつり》の茸だね。坊主様《ぼんさま》も尼様も交ってよ、尼は大勢、びしょびしょびしょびしょと湿った所を、坊主様は、すたすたすたすた乾いた土を行《ゆ》く。湿地茸《しめじたけ》、木茸《きくらげ》、針茸《はりたけ》、革茸《こうたけ》、羊肚茸《いぐち》、白茸《しろたけ》、やあ、一杯だ一杯
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