社《やしろ》の柵の横手を、坂の方へ行ったらしいで、後へ、すたすた。坂の下口《おりくち》で気が附くと、驚《おど》かしやがらい、畜生めが。俺の袖の中から、皺《しわ》びた、いぼいぼのある蒼《あお》い顔を出して笑った。――山は御祭礼《おまつり》で、お迎いだ――とよう。……此奴《こやつ》はよ、大《でか》い蕈《きのこ》で、釣鐘蕈《つりがねだけ》と言うて、叩くとガーンと音のする、劫羅《こうら》経た親仁《おやじ》よ。……巫山戯《ふざけ》た爺《じじい》が、驚かしやがって、頭をコンとお見舞申そうと思ったりゃ、もう、すっこ抜けて、坂の中途の樫《かし》の木の下に雨宿りと澄ましてけつかる。
 川端へ着くと、薄《うっす》らと月が出たよ。大川はいつもより幅が広い、霧で茫《ぼう》として海見たようだ。流《ながれ》の上の真中《まんなか》へな、小船が一|艘《そう》。――先刻《さっき》ここで木の実を売っておった婦《おんな》のような、丸い笠きた、白い女が二人乗って、川下から流を逆に泳いで通る、漕《こ》ぐじゃねえ。底蛇と言うて、川に居《お》る蛇が船に乗ッけて底を渡るだもの。船頭なんか、要るものかい、ははん。」
 と高慢な笑い方で
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