従七位は、山伏どもを、じろじろと横目に掛けつつ、過言を叱する威を示して、
「で、で、その衣服《きもの》はどうじゃい。」
「ははん――姫様《ひいさま》のおめしもの持て――侍女《こしもと》がそう言うと、黒い所へ、黄色と紅条《あかすじ》の縞《しま》を持った女郎蜘蛛の肥えた奴が、両手で、へい、この金銀珠玉だや、それを、その織込んだ、透通る錦《にしき》を捧げて、赤棟蛇《やまかがし》と言うだね、燃える炎のような蛇の鱗《うろこ》へ、馬乗りに乗って、谷底から駈《か》けて来ると、蜘蛛も光れば蛇も光る。」
と物語る。君がいわゆる実家《さと》の話柄《こと》とて、喋舌《しゃべ》る杢若の目が光る。と、黒痘痕《くろあばた》の眼《まなこ》も輝き、天狗、般若、白狐の、六箇《むつ》の眼玉も赫《かッ》となる。
「まだ足りないで、燈《あかり》を――燈を、と細い声して言うと、土からも湧《わ》けば、大木の幹にも伝わる、土蜘蛛だ、朽木だ、山蛭《やまひる》だ、俺《おれ》が実家《さと》は祭礼《おまつり》の蒼い万燈、紫色の揃いの提灯、さいかち茨《いばら》の赤い山車《だし》だ。」
と言う……葉ながら散った、山葡萄《やまぶどう》と山茱
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