しゃるよ。」
「天井か、縁の下か、そんなものがどこに居る?」
と従七位はまた苦い顔。
七
杢若は筵《むしろ》の上から、古綿を啣《くわ》えたような唇を仰向《あおむ》けに反らして、
「あんな事を言って、従七位様、天井や縁の下にお姫様が居るものかよ。」
馬鹿にしないもんだ、と抵抗面《はむかいづら》は可《よ》かったが、
「解った事を、草の中に居るでないかね……」
はたして、言う事がこれである。
「そうじゃろう、草の中でのうて、そんなものが居るものか。ああ、何《な》んと云う、どんな虫じゃい。」
「あれ、虫だとよう、従七位様、えらい博識《ものしり》な神主様がよ。お姫様は茸《きのこ》だものをや。……虫だとよう、あはは、あはは。」と、火食せぬ奴《やつ》の歯の白さ、べろんと舌の赤い事。
「茸だと……これ、白痴《たわけ》。聞くものはないが、あまり不便《ふびん》じゃ。氏神様のお尋ねだと思え。茸が婦人《おんな》か、おのれの目には。」
「紅茸《べにたけ》と言うだあね、薄紅《うすあこ》うて、白うて、美《うつくし》い綺麗な婦人《おんな》よ。あれ、知らっしゃんねえがな、この位な事をや。」
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