のは果もの類。桃は遅い。小さな梨、粒林檎《つぶりんご》、栗《くり》は生のまま……うでたのは、甘藷《さつまいも》とともに店が違う。……奥州辺とは事かわって、加越《かえつ》のあの辺に朱実《あけび》はほとんどない。ここに林のごとく売るものは、黒く紫な山葡萄《やまぶどう》、黄と青の山茱萸《やまぐみ》を、蔓《つる》のまま、枝のまま、その甘渋くて、且つ酸《すっぱ》き事、狸が咽《む》せて、兎が酔いそうな珍味である。
このおなじ店が、筵《むしろ》三枚、三軒ぶり。笠《かさ》被《き》た女が二人並んで、片端に頬被《ほおかぶ》りした馬士《まご》のような親仁《おやじ》が一人。で、一方の端《はじ》の所に、件《くだん》の杢若が、縄に蜘蛛の巣を懸けて罷出《まかりいで》た。
「これ、何さあ。」
「美しい衣服《べべ》じゃが買わんかね。」と鼻をひこつかす。
幾歳《いくつ》になる……杢の年紀《とし》が分らない。小児《こども》の時から大人のようで、大人になっても小児に斉《ひと》しい。彼は、元来、この町に、立派な玄関を磨いた医師《いしゃ》のうちの、書生兼小使、と云うが、それほどの用には立つまい、ただ大食いの食客《いそうろう》
前へ
次へ
全34ページ中3ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング