に、裕福な仕舞家《しもたや》の土蔵の羽目板を背後《うしろ》にして、秋の祭礼《まつり》に、日南《ひなた》に店を出している。
売るのであろう、商人《あきんど》と一所に、のほんと構えて、晴れた空の、薄い雲を見ているのだから。
飴《あめ》は、今でも埋火《うずみび》に鍋《なべ》を掛けて暖めながら、飴ん棒と云う麻殻《あさがら》の軸に巻いて売る、賑《にぎや》かな祭礼でも、寂《さ》びたもので、お市、豆捻《まめねじ》、薄荷糖《はっかとう》なぞは、お婆さんが白髪《しらが》に手抜《てぬぐい》を巻いて商う。何でも買いなの小父さんは、紺の筒袖を突張《つっぱ》らかして懐手の黙然《もくねん》たるのみ。景気の好《い》いのは、蜜垂《みつたらし》じゃ蜜垂じゃと、菖蒲団子《あやめだんご》の附焼を、はたはたと煽《あお》いで呼ばるる。……毎年顔も店も馴染《なじみ》の連中、場末から出る際商人《きわあきんど》。丹波鬼灯《たんばほおずき》、海酸漿《うみほおずき》は手水鉢《ちょうずばち》の傍《わき》、大きな百日紅《さるすべり》の樹の下に風船屋などと、よき所に陣を敷いたが、鳥居外のは、気まぐれに山から出て来た、もの売で。――
売る
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