違《すれちが》って通っても、じろりと一睨《ひとにら》みをくれるばかり。威あって容易《たやす》く口を利かぬ。それを可恐《こわ》くは思わぬが、この社司の一子に、時丸と云うのがあって、おなじ悪戯盛《いたずらざかり》であるから、ある時、大勢が軍《いくさ》ごっこの、番に当って、一子時丸が馬になった、叱《しっ》! 騎《の》った奴《やつ》がある。……で、廻廊を這《は》った。
大喝一声、太鼓の皮の裂けた音して、
「無礼もの!」
社務所を虎のごとく猛然として顕《あらわ》れたのは摂理の大人《うし》で。
「動!」と喚《わめ》くと、一子時丸の襟首を、長袖のまま引掴《ひッつか》み、壇を倒《さかしま》に引落し、ずるずると広前を、石の大鉢の許《もと》に掴《つか》み去って、いきなり衣帯を剥《は》いで裸にすると、天窓《あたま》から柄杓《ひしゃく》で浴びせた。
「塩を持て、塩を持て。」
塩どころじゃない、百日紅の樹を前にした、社務所と別な住居《すまい》から、よちよち、臀《いしき》を横に振って、肥《ふと》った色白な大円髷《おおまるまげ》が、夢中で駈《か》けて来て、一子の水垢離《みずごり》を留めようとして、身を楯《たて
前へ
次へ
全34ページ中18ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング