カタンカタン、三ツ四ツ七ツ足駄の歯の高響《たかひびき》。
脊丈のほども惟《おも》わるる、あの百日紅《さるすべり》の樹の枝に、真黒《まっくろ》な立烏帽子《たてえぼし》、鈍色《にぶいろ》に黄を交えた練衣《ねりぎぬ》に、水色のさしぬきした神官の姿一体。社殿の雪洞《ぼんぼり》も早や影の届かぬ、暗夜《やみ》の中に顕《あらわ》れたのが、やや屈《かが》みなりに腰を捻《ひね》って、その百日紅の梢《こずえ》を覗《のぞ》いた、霧に朦朧《もうろう》と火が映って、ほんのりと薄紅《うすくれない》の射《さ》したのは、そこに焚落《たきおと》した篝火《かがりび》の残余《なごり》である。
この明《あかり》で、白い襟、烏帽子の紐《ひも》の縹色《はないろ》なのがほのかに見える。渋紙した顔に黒痘痕《くろあばた》、塵《ちり》を飛ばしたようで、尖《とん》がった目の光、髪はげ、眉薄く、頬骨の張った、その顔容《かおかたち》を見ないでも、夜露ばかり雨のないのに、その高足駄の音で分る、本田|摂理《せつり》と申す、この宮の社司で……草履か高足駄の他《ほか》は、下駄を穿《は》かないお神官《かんぬし》。
小児《こども》が社殿に遊ぶ時、摺
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