蒼《あお》い空、薄雲よ。
人の形が、そうした霧の裡《なか》に薄いと、可怪《あやし》や、掠《かす》れて、明《あから》さまには見えない筈《はず》の、扱《しご》いて搦《から》めた縺《もつ》れ糸の、蜘蛛の囲《い》の幻影《まぼろし》が、幻影が。
真綿をスイと繰ったほどに判然と見えるのに、薄紅《うすべに》の蝶、浅葱《あさぎ》の蝶、青白い蝶、黄色な蝶、金糸銀糸や消え際の草葉螟蛉《くさばかげろう》、金亀虫《こがねむし》、蠅の、蒼蠅、赤蠅。
羽ばかり秋の蝉、蜩《ひぐらし》の身の経帷子《きょうかたびら》、いろいろの虫の死骸《しがい》ながら巣を引※[#「てへん+劣」、第3水準1−84−77]《ひんむし》って来たらしい。それ等が艶々《つやつや》と色に出る。
あれ見よ、その蜘蛛の囲に、ちらちらと水銀の散った玉のような露がきらめく……
この空の晴れたのに。――
四
これには仔細《しさい》がある。
神の氏子のこの数々の町に、やがて、あやかしのあろうとてか――その年、秋のこの祭礼《まつり》に限って、見馴《みな》れない、商人《あきゅうど》が、妙な、異《かわ》ったものを売った。
宮の
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