する。……委《くわ》しく言えば、昼は影法師に肖《に》ていて、夜は明《あきら》かなのであった。
さて、店を並べた、山茱萸《やまぐみ》、山葡萄《やまぶどう》のごときは、この老鋪《しにせ》には余り資本が掛《かか》らな過ぎて、恐らくお銭《あし》になるまいと考えたらしい。で、精一杯に売るものは。
「何だい、こりゃ!」
「美しい衣服《べべ》じゃがい。」
氏子は呆《あき》れもしない顔して、これは買いもせず、貰いもしないで、隣の木の実に小遣《こづかい》を出して、枝を蔓《つる》を提げるのを、じろじろと流眄《ながしめ》して、世に伯楽なし矣《い》、とソレ青天井を向いて、えへらえへらと嘲笑《あざわら》う……
その笑《わらい》が、日南《ひなた》に居て、蜘蛛の巣の影になるから、鳥が嘴《くちばし》を開けたか、猫が欠伸《あくび》をしたように、人間離れをして、笑の意味をなさないで、ぱくりとなる……
というもので、筵《むしろ》を並べて、笠を被《かぶ》って坐った、山茱萸、山葡萄の婦《おんな》どもが、件《くだん》のぼやけさ加減に何となく誘われて、この姿も、またどうやら太陽《ひ》の色に朧々《おぼろおぼろ》として見える。
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