……蕪《かぶ》を噛《かじ》る。牛蒡《ごぼう》、人参は縦に啣《くわ》える。
この、秋はまたいつも、食通大得意、というものは、木の実時なり、実り頃、実家の土産の雉《きじ》、山鳥、小雀《こがら》、山雀《やまがら》、四十雀《しじゅうから》、色どりの色羽を、ばらばらと辻に撒《ま》き、廂《ひさし》に散らす。ただ、魚類に至っては、金魚も目高も決して食わぬ。
最も得意なのは、も一つ茸《きのこ》で、名も知らぬ、可恐《おそろ》しい、故郷《ふるさと》の峰谷の、蓬々《おどろおどろ》しい名の無い菌《くさびら》も、皮づつみの餡《あん》ころ餅ぼたぼたと覆《こぼ》すがごとく、袂《たもと》に襟に溢《あふ》れさして、山野の珍味に厭《あ》かせたまえる殿様が、これにばかりは、露のようなよだれを垂《たら》し、
「牛肉のひれや、人間の娘より、柔々《やわやわ》として膏《あぶら》が滴る……甘味《うまい》ぞのッ。」
は凄《すさま》じい。
が、かく菌《きのこ》を嗜《たしな》むせいだろうと人は言った、まだ杢若に不思議なのは、日南《ひなた》では、影形が薄ぼやけて、陰では、汚れたどろどろの衣《きもの》の縞目《しまめ》も判明《はっきり》
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