って、真紅《まっか》なのだの、黄色い銀杏《いちょう》だの、故《わざ》とだって懐《ふところ》へさ、入《い》れる事よ。
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折れたる熊手《くまで》、新しきまた古箒《ふるぼうき》を手《て》ん手《で》に引出《ひきいだ》し、落葉《おちば》を掻寄《かきよ》せ掻集め、かつ掃きつつ口々に唄《うた》う。
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「お正月は何処《どこ》まで、
 からから山の下まで、
 土産《みやげ》は何《なん》じゃ。
 榧《かや》や、勝栗《かちぐり》、蜜柑《みかん》、柑子《こうじ》、橘《たちばな》。」……
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お沢 (向って左の方《かた》、真暗《まっくら》に茂れる深き古杉の樹立《こだち》の中より、青味の勝ちたる縞《しま》の小袖《こそで》、浅葱《あさぎ》の半襟《はんえり》、黒繻子《くろじゅす》の丸帯《まるおび》、髪は丸髷《まるまげ》。鬢《びん》やや乱れ、うつくしき俤《おもかげ》に窶《やつ》れの色見ゆ。素足《すあし》草履穿《ぞうりばき》にて、その淡き姿を顕わし、静《しずか》に出《い》でて、就中《なかんずく》杉の巨木《きょぼ
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