処じゃ。天井から、釣鐘《つりがね》が、ガーンと落ちて、パイと白拍子が飛込む拍子に――御矢《おんや》が咽喉《のど》へ刺《ささ》った。(居《い》ずまいを直す)――ははッ、姫君。大《おお》釣鐘と白拍子と、飛ぶ、落つる、入違《いれちが》いに、一矢《ひとや》、速《すみやか》に抜取りまして、虚空《こくう》を一飛びに飛返ってござる。が、ここは風が吹きぬけます。途《みち》すがら、遠州|灘《なだ》は、荒海《あらうみ》も、颶風《はやて》も、大雨《おおあめ》も、真の暗夜《やみよ》の大暴風雨《おおあらし》。洗いも拭《ぬぐ》いもしませずに、血ぬられた御矢は浄《きよ》まってござる。そのままにお指料《さしりょう》。また、天を飛びます、その御矢の光りをもって、沖に漂いました大船《たいせん》の難破一|艘《そう》、乗組んだ二百あまりが、方角を認め、救われまして、南無大権現《なむだいごんげん》、媛神様と、船の上に黒く並んで、礼拝《らいはい》恭礼をしましてござる。――御利益《ごりやく》、――御奇特《ごきどく》、祝着《しゅうじゃく》に存じ奉る。
巫女 お喜びを申上げます。
媛神 (梢を仰ぐ)ああ、空にきれいな太白星《たいはくせ
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