《ねずみこもん》の紋着《もんつき》、胸に手箱を掛けたり。馳せ出《い》でつつ、その落ちたる梭を取って押戴《おしいただ》き、社頭に恭礼し、けいひつを掛く)しい、……しい……しい。……
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一同|茫然《ぼうぜん》とす。
御堂《みどう》正面の扉、両方にさらさらと開《ひら》く、赤く輝きたる光、燦然《さんぜん》として漲《みなぎ》る裡《うち》に、秘密の境《きょう》は一面の雪景《せっけい》。この時ちらちらと降りかかり、冬牡丹《ふゆぼたん》、寒菊《かんぎく》、白玉《しらたま》、乙女椿《おとめつばき》の咲満《さきみ》てる上に、白雪《しらゆき》の橋、奥殿にかかりて玉虹《ぎょっこう》の如きを、はらはらと渡り出《い》づる、気高《けだか》く、世にも美しき媛神《ひめがみ》の姿見ゆ。
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媛神 (白がさねして、薄紅梅《うすこうばい》に銀のさや形《がた》の衣《きぬ》、白地《しろじ》金襴《きんらん》の帯。髻《もとどり》結いたる下髪《さげがみ》の丈《たけ》に余れるに、色|紅《くれない》にして、たとえば翡翠《ひすい》の羽《はね》にてはける
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