惜《くちおし》い。前刻《さっき》から幾度《いくたび》か、舌を噛《か》んで、舌を噛んで死のうと思っても、三日、五日、一目も寝ぬせいか、一枚も欠けない歯が皆|弛《ゆる》んで、噛切《かみき》るやくに立ちません。舌も縮んで唇《くちびる》を、唇を噛むばかり。(その唇より血を流す。)
神職 いよいよ悪鬼の形相《ぎょうそう》じゃ。陽を以って陰を払う。笛、太鼓、さあ、囃せ。引立てろ。踊らせい。
[#ここから4字下げ]
とりどりに、笛、太鼓の庭につきたるが、揃《そろ》って音《ね》を入《い》る。
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
お沢 (村人らに虐《しいた》げられつつ)堪忍ね、堪忍、堪忍して、よう。堪忍……あれえ。
[#ここから4字下げ]
からりと鳴って、響くと斉《ひと》しく、金色《こんじき》の機《はた》の梭《ひ》、一具宙を飛落《とびお》つ。一同|吃驚《きっきょう》す。社殿の片扉《かたとびら》、颯《さっ》と開《ひら》く。
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
巫女 (階《きざはし》を馳《は》せ下《くだ》る。髪は姥子《おばこ》に、鼠小紋
前へ 次へ
全55ページ中38ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング