おおいがわ》より大《で》かいという、長柄《ながら》川の鉄橋な、お前様。川むかいの駅へ行った県庁づとめの旦那どのが、終汽車《しまいぎしゃ》に帰らぬわ。予《かね》てうわさの、宿場《しゅくば》の娼婦《ふんばり》と寝たんべい。唯おくものかと、その奥様ちゅうがや、梅雨《つゆ》ぶりの暗《やみ》の夜中《よなか》に、満水の泥浪《どろなみ》を打つ橋げたさ、すれすれの鉄橋を伝ってよ、いや、四つ這いでよ。何が、いま産れるちゅう臨月腹《りんげつばら》で、なあ、流《ながれ》に浸りそうに捌《さば》き髪《がみ》で這うて渡った。その大《おおき》な腹ずらえ、――夜《よ》がえりのものが見た目では、大《でか》い鮟鱇《あんこう》ほどな燐火《ふとだま》が、ふわりふわりと鉄橋の上を渡ったいうだね、胸の火が、はい、腹へ入《はい》って燃えたんべいな。
仕丁 お言《ことば》の中《なか》でありますがな、橋が危《あぶな》くば、下の谿河は、巌《いわ》を伝うて渡られますでな、お厩《うまや》の馬はいつも流を越します。いや、先刻などは、落葉が重なり重なり、水一杯に渦巻いて、飛々《とびとび》の巌が隠れまして、何処《どこ》を渡ろうかと見ますうちに、水
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