谿河《たにがわ》を渡りました。村方《むらかた》に、知るべのものがありまして、其処《そこ》から通いましたのでございます。
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神楽の人々|囁《ささや》き合う。
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禰宜 知っておるかな。
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――「なあ。」「よ。」「うむ。」「あれだ。」口々に――
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後見 何が、お霜婆《しもばあ》さんの、ほれ、駄菓子屋の奥に、ちらちらする、白いものがあっけえ。町での御恩人ぞい。恥しい病《やまい》さあって隠れてござるで、ほっても垣《かき》のぞきなどせまいぞ、と婆さんが言うだでな。
笛の男 癩《かったい》ずらか。
太鼓の男 恥しい病ちゅうで。
おかめの面の男 ほんでも、孕《はら》んだ娘だべか。
禰宜 女子《おなご》が正しい懐妊は恥ではないのじゃ。それでは、毎晩、真夜中に、あの馬も通らぬ一本橋を渡ったじゃなあ。
道化の面の男 女の一念だで一本橋を渡らいでかよ。ここら奥の谿河《たにがわ》だけれど、ずっと川下《かわしも》で、東海道の大井川《
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