ったったっ、甘露甘露。きゃッきゃッきゃッ。はて、もう御前《おんまえ》に近い。も一度馬柄杓でもあるまいし、猿にも及ぶまい。(とろりと酔える目に、あなたに、階《きざはし》なるお沢の姿を見る。慌《あわただ》しくまうつむけに平伏《ひれふ》す)ははッ、大権現《だいごんげん》様、御免なされ下さりませ、御免なされ下さりませ。霊験《あらたか》な御姿《おすがた》に対し恐多《おそれおお》い。今やなぞ申しましたる儀は、全く譫言《たわごと》にござります。猿の面を被りましたも、唯おみきを私《わたくし》しょう、不届《ふとどき》ばかりではござりませぬ、貴女様御祭礼の前日夕、お厩《うまや》の蘆毛を猿が曳《ひ》いて、里方《さとかた》を一巡いたしますると、それがそのままに風雨順調、五穀|成就《じょうじゅ》、百難|皆除《かいじょ》の御神符《ごしんぷ》となります段を、氏子中《うじこじゅう》申伝《もうしつた》え、これが吉例《きちれい》にござりまして、従って、海つもの山つものの献上を、は、はッ、御覧の如く清らかに仕《つかまつ》りまする儀でござりまして、偏《ひとえ》にこれ、貴女様御威徳にござります。お庇《かげ》を蒙《こうむ》ります
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