はないので。いつ切尖《きっさき》が降って来ようも知れません。ちっとでも楯《たて》になるものをと、皆《みんな》が同一《おなじ》心です。言合わせたように順々に……前《さき》へ御免を被《こうむ》りますつもりで、私が釣っておいた蚊帳へ、総勢六人で、小さくなって屈《かが》みました。
 変におしおきでも待ってるようでなお不気味でした。そうか、と云って、夜《よる》夜中《よなか》、外へ遁出《にげだ》すことは思いも寄らず、で、がたがた震える、突伏《つッぷ》す、一人で寝てしまったのがあります、これが一番可いのです。坊様《ぼうさん》は口の裏《うち》で、頻《しきり》にぶつぶつと念じています。
 その舌の縺《もつ》れたような、便《たより》のない声を、蚊の唸《うな》る中に聞きながら、私がうとうとしかけました時でした。密《そっ》と一人が揺《ゆす》ぶり起して、
(聞えますか、)
 と言います。
(ココだ、ココだ、と云う声が、)と、耳へ口をつけて囁《ささや》くんです。それから、それへ段々、また耳移しに。
(失物《うせもの》はココにある、というお知らせだろう、)
(どうか、)と言う、ひそひそ相談《ばなし》。
 耳を澄ます
前へ 次へ
全189ページ中97ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング