砂地に這《は》った、朦朧《もうろう》とした影に向って、窘《たしな》めるように言った。
潮は光るが、空は折から薄曇りである。
法師もこれあるがために暗いような、和郎の影法師を伏目に見て、
「一ツ分けてやりましょうかね。団子が欲しいのかも知れん、それだと思いが可恐《おそろ》しい。ほんとうに石にでもなると大変。」
「食気《くいけ》の狂人《きちがい》ではござりませんに、御無用になさりまし。
石じゃ、と申しましたのは、これでもいくらか、不断の事を、覚えていると見えまして、私《わし》がいつでもお客様に差上げますのを知っておりまして、今のように云うたのでござりましょ。
また埴土《ねばつち》の団子じゃ、とおっしゃってはなりません。このお前様。」
と、法師の脱いで立てかけた、檜笠《ひのきがさ》を両手に据えて、荷物の上へ直すついでに、目で教えたる葭簀《よしず》の外。
さっくと削った荒造《あらづくり》の仁王尊が、引組《ひっく》む状《さま》の巌《いわ》続き、海を踏んで突立《つッた》つ間に、倒《さかさ》に生えかかった竹藪《たけやぶ》を一叢《ひとむら》隔てて、同じ巌《いわお》の六枚|屏風《びょうぶ》、
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