ではありますが、家と云えば、この畳を敷いた――八幡不知《やわたしらず》。
 第一要害がまるで解《わか》りません。真中《まんなか》へ立ってあっちこっち瞻《みまわ》しただけで、今入って来た出口さえ分らなくなりましたほどです。
 大袈裟《おおげさ》に言えば、それこそ、さあ、と云う時、遁路《にげみち》の無い位で。夏だけに、物の色はまだ分りましたが、日は暮れるし、貴僧《あなた》、黒門までは可《い》い天気だったものを、急に大粒な雨!と吃驚《びっくり》しますように、屋根へ掛《かか》りますのが、この蔽《おっ》かぶさった、欅《けやき》の葉の落ちますのです。それと知りつつ幾たびも気になっては、縁側から顔を出して植込の空を透かしては見い見いしました、」
 と肩を落して、仰ぎ様《ざま》に、廂《ひさし》はずれの空を覗《のぞ》いた。
「やっぱり晴れた空なんです……今夜のように。」
「しますると……」
 旅僧は先祖が富士を見た状《さま》に、首あげて天井の高きを仰ぎ、
「この、時々ぱらぱらと来ますのは、木《こ》の葉でございますかな。」
「御覧なさい、星が降りそうですから、」
「成程。その癖音のしますたびに、ひやひやと
前へ 次へ
全189ページ中84ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング