かり、細く沖で救《すくい》を呼ぶ白旗のように、風のまにまに打靡《うちなび》く。海の方は、暮が遅くて灯《あかり》が疾《はや》く、山の裾は、暮が早くて、燈《ともしび》が遅いそうな。
まだそれも、鳴子引けば遠近《おちこち》に便《たより》があろう。家と家とが間《あい》を隔て、岸を措《お》いても相望むのに、黒門の別邸は、かけ離れた森の中に、ただ孤家《ひとつや》の、四方へ大《おおき》なる蜘蛛《くも》のごとく脚を拡げて、どこまでもその暗い影を畝《うね》らせる。
月は、その上にかかっているのに。……
先達《せんだつ》の仁右衛門は、早やその樹立《こだち》の、余波《なごり》の夜に肩を入れた。が、見た目のさしわたしに似ない、帯がたるんだ、ゆるやかな川|添《ぞい》の道は、本宅から約八丁というのである。
宰八が言続《いいつ》いで、
「……(外廻りを流れて来るし、何もハイ空家から手毬を落す筈《はず》はねえ。そんでも猫の死骸なら、あすこへ持って行って打棄《うっちゃ》った奴があるかも知んねえ、草ぼうぼうだでのう、)と私《わし》、話をしただがね。」
十九
「それからその少《わけ》え方は、(どう
前へ
次へ
全189ページ中73ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング